ストレスを解消するための三つのC
最後にもうひとつ。現代は「ストレス社会」と言われるようにバブルが崩壊して、大変な時代を迎えています。日常いろいろ起こる問題も、だんだん年を追うにしたがって、過激で悲惨な事件が多くなってきているわけですが、お互い現代に生きて、ストレスに満ちた日常生活と思いますが、「ストレスからの解放」をどうしたらよいか、という問題もあります。
森田療法もストレスを解放させることを、最初にちょっとお話しましたが、アメリカでは、ストレスを解消するための方法として、「三つのC」という「日常生活の習慣の問題の処理の仕方」をあげています。
1)「コグニション(認知)」のひずみを正す
最初の「C」は、「『コグニション(認知)』のひずみを正す」。これはどういうことかというと、「認知のひずみ」とは、ある一つのことや、思いにとらわれているために、ほかのことが見えなくなり、聞こえなくなって、心の自由を失い、体の自由を失っているという「とらわれ」を言っている。その「とらわれ」から解放されれば、心や体が自由になって、全体を広く見渡すことができるし、必要なアドバイスに耳を貸すことができるし、的確で正しい方向を見つけて行動することができるというのです。「認知のひずみ」の修正は森田先生が、治療のなかで常に言っておられることであります。
2)「コントロール感覚」を身につける
二番目の「C」は、「『コントロール感覚』を身につける」。「コントロール感覚」とは、どういうことかというと、自主的に主体性を持って行動する、いろいろな感情は自分のものである、自分がコントロールする、ということであります。この「コントロール感覚を見失うとストレスに脅かされる」と言っています。
どういうことかというと、仕事をしている時、自発的でなく受身で、逃げ腰でやっている。まわりから、いろいろ要求が大きすぎるとか、自分の力以上の仕事を割り当てられていると思っている。自分がやる使命としてその仕事があるのではなくて、人から要求されている。それから能力以上のことを、自分がさせられている…、と思い、受身でやっている。それがストレスというのです。そういうコントロール感覚を見失った状態になると、その行き着くところは、「学習性無力症」。また失敗の繰り返しで、やる気を失ってしまっている「燃え尽き症候群」。主体性を失って、受身で仕事をして、不完全さに悩みながら、成果がいつも得られないと思っていて、ついにやる気をなくした中年の人を職場で時々見かけますが、その人たちが「燃え尽き症候群」といわれるわけです。これらの疾患の人は、「自発性」とか「事実本位」、「目的本位」、「価値観の没却」、「恐怖突入」とか、「できたことに目を向ける」とか、「小さな喜びに反復体験をして自信をつける」ということを忘れてしまっているのです。
3)「コミュニケーション」三番目の「C」
これは『コミュニケーション』です。自分の考えにとれわれ、視野が狭くなって独善的な人というのは、人の意見に素直に耳を貸さない。お互いに意志の疎通性を欠く。結果的には、孤立してしまうということが起こり、ストレスの原因になる。だからコミュニケーションを大事にしましょうというのです。これはたとえば、屋台や赤ちょうちんなどに行って、同僚と一杯飲みながら、上司の悪口を言って帰る。そうすると、次の日一日またがんばって仕事ができる。まあそういうことというのは、日常していることですが、こういうものがなくなるとストレスになる。思い込みや「とらわれ」から解放されなくなる。孤立しますと、考え方も独善的で膠着(こうちゃく)したものになって、かたくなな解決方法しかできなくなる。抜け道がなくなってくる。
先日のバスジャック事件での17歳の少年は、まさにこういう状態に追い込まれて、「バスジャックしか自分の解決すべき道はない」と判断してしまった。たぶん少年だけではなく、お母さんも、少年の家族も、追い詰められて解決の方法はそういう方向に行ってしまった。ほかに解決方法がなくなった。お話を聞きますと、いろいろなかたに相談しておられるようですが、思い込みがあるために、結果的にバスジャックをするという結末になってしまったのだと思います。
後日談ですが、最初は母校にたてこもるはずだったとのことです。いずれにしても、少年もご両親もストレスのなかで孤立してしまったところに問題があると、私は思っております。
以上、「森田療法の魅力」ということでお話させていただきました。
2000年5月 30周年記念講演会での講話
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